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退任に寄せて



金属工芸「鋳金」とともに


 2022年11月3日から11月13日までの11日間、東京藝術大学美術館陳列館において「Rebirth」というタイトルのもと退任記念展を開催することができた。東京藝術大学に着任してから17年間の総まとめの展覧会となった。この展覧会のために2年前ぐらいから構想を練り、制作を続け、先日無事に展覧会を終了した。新型コロナウイルスが収束しない中、3,000人を超す来場者があったことは嬉しい限りであった。


 私の「鋳金」との出会いは大学に入ってからであった。学生数人で画廊巡りをしている時に当時の鋳金の教授であった原正樹先生とお会いし、一杯行こうと言うことになり、そのまま原先生のご自宅まで同行し、先生の鋳物の作品をいろいろと拝見できる機会があった。その中でブロンズが美しい青を発色してその形体を特に印象付けている作品に不思議な魅力を感じ、鋳物の作品を自分でも作ってみたいと感じたのが始めだった。


 最初は学ぶことが多すぎて混乱している状況であったが、年を重ねるごとに少しずつ鋳物のことが身につき、現在ではいろいろな面で鋳物的思考になってきた感がある。私は特に金属を熔解する場面が大好きで、常にその場にいたい衝動に駆られる。熔解時の轟音とともに形が次第に変形し、固形物から熔融状態になったところで精錬作業をし、注湯(熔けた金属を鋳型に流すこと)となる。この時は熔解のための送風を一切止めるため、深い静寂が周りを包み込む。みんなで呼吸を合わせ、一気に鋳型に湯(熔けた金属)を流し込む。静から動へ。この瞬間に金属に次の形体の命が吹き込まれ、新しい鋳物の造形の誕生となる。このドラマティックな仕事から離れられなくなった。


 鋳物を通して多くの人との出会いもあった。特に学生との触れ合いは貴重なものであった。寝食をともにして同じ目的に向かって過ごす時間は魅力的であり、刺激的であった。特に吹き(鋳造すること)の後の後吹き(鋳造に協力してくれた人々へ感謝の酒席)では、馬鹿な話もしたが、技術論や人生観にも話が及び、お互いの接点が強固になれた貴重な時間であった。ただし、新型コロナウイルスが蔓延してからそれもできなくなり、鋳金研究室全体の統一感は薄れ、個々での展開を余儀なくされている現状は残念であり、早く以前の姿に戻れることを熱望するものである。


赤沼 潔

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