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退任に寄せて




「歴史と現代の狭間で未来を考える」  -谷岡靖則退任記念展を終えて-

 

 私の大学生活は美術作家になることを夢見て希望を持って制作をしていました。その頃は概念美術が台頭し、それに対しニューペインティングも出てきた頃です。今まで美術の枠の中で捉えることのできない新しい美術を生み出そうという気運も高まっていました。私が生まれた50年代頃を過ぎた頃から80年代になるまでそれぞれの年代で日本の美術も激動であったように思えます。私は80年に大学に入学しましたが、そこからは自分自身を見つめ直しながらも自分ができる表現は何なのかを常に考えていて、国内外の多くの現代アーティストの影響も受けていた時期でもあります。そういった時期だからこそ工芸科に籍を置きながらも工芸の枠には囚われず自由な発想と表現を求めてきました。今でもそれは変わっていないことだと思えます。

 

 領域という枠をつくることは組織にとっては善いことでも美術(アーティスト)にとっては悪いことになる場合が多くあります。だからこそ、自分を工芸という枠に嵌めないことが自由な発想を堅持できると考えています。これは「工芸という領域を考えない」ということでは決してなく、「工芸だからこそ持ち得る歴史的な美しい表現」を考察し、現代においてその中身を検証した上で自身が持つ現代性と兼ね合わせたものを美術として再構築することが重要だと考えています。そこで残っていくものこそが「新しい工芸」として重要な作品になっていくだろうと予測しています。そして、工芸は世界の中でも「新しいアート」としても活躍できる要素が多く含まれています。それは決して技術というものではなく、かたちということだけでもなく、感覚の内に潜むものとしての要素です。今そういったものを世界は日本の中に探し始めていると思います。だからこそ作家として世界に羽ばたくチャンスなので、それを活かして欲しいと思っています。


 藝大にいる皆さんは作家の卵であります。作家になるには手を動かして初めてわかること、そしてそこで初めて新しいかたちとして何かが生まれてくることが常だと思います。そこにはテクニックが必要ということで括られるケースもありますが、実はそればかりではなく、自身が持っている内面性であったり思考性であったりします。ものは決して技術の話だけでは語ることができないのです。そもそも、ものは単純には話せないのです。だからこそ慎重かつ大胆に思考し、制作すべきかと思います。そして社会にそれらを伝えるには若い人たちが持っているその世代の現代性や思考性や感覚が必要だと思っています。ここにいる皆さんはその担い手であり、伝えたいことを実行すべき人たちだと思います。だからこそ、常に手を動かし、思考し、感覚を研ぎ澄まして制作に励んでください。新しい未来を期待しています。

 


工芸科第5研究室(鋳金) 教授 谷岡靖則

 

 
 
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